車いすのクッションには大きく分けて二つの役割があります。
一つは座り心地をよくする、すなわち、座圧を小さくすることです。もう一つは車いすに座っているときの姿勢を正しい姿勢にし、その姿勢を維持するという役割です。座り心地のよいクッションとはどのようなクッションでしょうか。私たちがじっと身体を動かさずに座っていると、お尻の接触圧(座圧)によって臀部の毛細血管の血行が阻害されます。これが長時間継続すると褥そうを形成してしまいます。このため健康な人は姿勢を変えて、血行を維持します。しかし、身体を動かせない人はそのまま座り続けるしかなくなるのですが、何となくもぞもぞしてお尻の圧を変えようとすると、お尻が前に滑っていって、いわゆるずっこけ姿勢になってしまいます。
お尻の接触圧を小さくするのがクッションの大切な役割の一つですが、そのためにはバネのような弾性要素を持つ素材をクッションにします。一般的にはウレタン(高反発系)がよく使われます。ウレタンの厚みが厚ければ厚いほど圧力は小さくなる傾向がありますが、クッションが厚くなると座面が高くなりますから、適度な反発を有する厚みにしています。
一方座り心地ということからいうと、低反発ウレタンの方がよい場合があります。しかし、低反発ウレタンは体重がかかり続けるとすぐに底づきしてしまい、圧力を小さくする能力が極端に低下してしまいます。このことから、座り心地がよく、圧力を分散してくれるクッションは表面(お尻に接触する側)に低反発ウレタンを用い、その下に高反発ウレタンを重ねる構造にします。これらウレタンの特性を変えて重層構造にしたクッションも市販されています。ウレタンクッションはきわめて安価なものから高価なものまで市販されていますが、内部のウレタンの構造によって価格が大きく変わると言えます。
一方、福祉用具すべてに言えることですが、使用条件によっていろいろなことが要求され、一つのことが充足されてもその他の要求項目に合わないと使えない場合があります。クッションで言えば、失禁があって、ウレタン系のクッションは使えないというような場合があります。本来失禁するということは排泄に対する対策が不十分だといえいうことになりますが、場合によっては種々の理由から十分な排泄対策が講じられず、車いす上で失禁してしまうということもあり得ることです。このような場合には容易に洗浄可能な素材が求められることになります。洗浄可能なクッションにはエアセル・クッション、ゲル・クッションなどいくつかの素材が利用されていますが、その中には上に示したようなプラスティック素材を糸状にしたものを編み目のような構造にしたものもあります。前述した高反発系のものや低反発系に近いものまで、種々の特性のものがあり、これらを上手に組み合わせたクッションも市販されています。